2020年6月8日月曜日

イタリアとCOVID19陽性接触者アプリ #MoneyLab8 (前半)

スロベニアにある非営利の文化機関であるAksiomaが主催しているMoneyLabというカンファレンスがとても面白いので紹介します。

Aksiomaはクリティカルな視座から新しいメディアアートや倫理等について学際的に研究・実践する取組を行っています。そのプロジェクトの一つであるMoneyLabは「お金」という切り口から社会を根底から考え直すカンファレンスです。今年のMoneyLabは約1か月にわたり毎週バーチャルに開催しているので、毎週リアルタイムに(または事後の動画)を視聴することができます。

MoneyLab #8

SHARE IDEAS, COMMENTS, QUESTIONS 👇🏿 OPEN CHAT IN NEW WINDOW The next appointment with the MoneyLab #8 streaming series is set for Monday, 1 June at 5 PM CET. The panel Care: Solidarity is Disobedience foresees the participation of Tomislav Medak as representative of the Pirate.Care research project, which focuses on autonomous responses to the...


なぜマネーなのか、というと公平な社会をつくり出すためのディスコースとして、欧州では非常にインパクトの強かったタックスヘイブンという社会問題を含みつつ、暗号通貨やキャッシュレス、グローバル金融システムなどについてアーティストや技術者、アクティビストらとともに検討するという目的意識からです。タックスヘイブンの問題は、日本ではスノーデンの暴露と同様に過少に見過ごされてしまった社会的問題のひとつですね・・・。タックスヘイブン問題が欧州で意識されるのは、日頃の文芸・哲学系の研究者のさかんな議論と欧州の芸術・学術研究支援の助成金の成果だと個人的には感じます。いわゆる”ボーダースタディ”という領域があって、以前から国境、境界という概念について議論・検討がなされていたからこそ、パナマ文書がでてきたときに、その哲学的示唆をより深く考察できています。

さて、今回は「データ主権(data soverignty)と接触記録(Proximity Tracing)」をテーマにスロベニアで活動するNGO Citizen DのCEOであるDomen Savičさんが、イタリア南部にいるJeromiの通称で知られるDenis Roioさん(フリーソフトウェアを創造する非営利組織のDYNE.ORGの設立者でEUのDECODEプロジェクトのCTO)へインタビューするもの。Jeromiは開発者でありながら、社会正義や倫理について強い意識を持っていることで知られています。Jeromiの発言が、すごく本質的で私の問題意識をうまく表現してくれているので救われます。

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インタビューが始まるとDomenはこう口火を切ります。
「ジェロミーにぜひ聞きたい。COVID19パンデミック以来、いつパンデミックの世界を救ってくれるアプリが登場するのか、ボタンで解決できるようななんらかの技術、またそういった問題についてどう思われますか?」

//ちょっとある意味でエフゲニー・モロゾフの本CLICK HERE TO SAVE EVERYTHINGを彷彿とさせる 問いですね。

この問いに対してジェロミーは「簡潔に答えるとどんなアプリが現れようとも私たちが現在直面している問題を解決できません。なんでそんな問いから始めるんでしょう」ときっぱり。そして次のように補足します。「まずは問題の定義から始めましょう。今起きていることは、あらゆるやりとり(interaction)において媒介(mediation)が増大していることです。」

媒介(mediation)とその増大というフレームから社会を捉える、というのはまさにメディアコミュニケーション研究の根っこの部分。

「デジタル技術の発展による媒介の増大は、新たなコミュニケーションの形やアートを生み出しています。媒介するということは、人間の表現、思想、コミュニケーションになんらかの第三者※の側面が介入し、場合によっては所謂『ミドルマン』となってそのコミュニケーションに対し盗聴、追加、削除、逸脱することがあります。」
「ほかのメディアのことを思い出してください。例えば電話、メール、写真。それぞれ良い点、悪い点をもたらしました。それぞれが人々の認識をどう変えたか。」

そしてさらに、哲学者ヴィレム・フルッサーの理論を踏まえ、次のようにコメントしています。(本気で理解したいと、ここここが参考になるかと)
「フルッサーが予見したようなテクノイメージの置かれる状況、つまりテクノイメージがリアリティに先行し、テクノイメージがその後を作る、ということは、まさに今我々が困っているフェイクニュース問題に相当すると考えられます。画像や音声の合成(synthesis)によるCovid19にまつわる陰謀論の拡散などは見事にフルッサーの理論が言い当たっているのではないでしょうか。」
「またデータビジュアライゼーションはテクノイメージの創造であると捉えることができるとすれば、データビジュアライゼーションもまた、リアリティを定義し説明するもので、やり様によっては、真実を隠したり明らかにすることになるので、どうデータを使うかが重要。」

さて、ようやく接触アプリの話に移ります。ジェロミーは、接触アプリが果たすべき役割は、あくまで個人が自身のリスクアセスメントをし、それに基づいて意思決定することであるとしています。SARS-COV2は、無症状の潜伏期間が長く、その期間中に接触したことを知ることができれば、個人がよりよい判断(自己隔離をしたり、その期間に接触した友人や家族にリスクを伝える)をすることができる、という前提からです。これに対し、接触アプリの悪い例は、トップダウンで、個人をトラッキングし、リスク評価をされる(リスク評価をするのは個人ではなく、上意下達的にモニタリングする側)ようなケースだとしています。あるべき姿はプライベートなアプリであり、自分に関するデータが他者によって集積され、そのことが自分にはわからないような状態であれば問題のあるアプリになってしまう、と述べています。