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2021年10月12日火曜日

巨大テック問題ーでも批判するマスコミも同じ

 フェイスブックの内部告発者が60ミニッツに出演し話題を呼んでいます。フェイスブックは、若い子たちへの有害性を知りながらも調査資料に蓋をし、コンテンツの掲示に関わるアルゴリズムについて利益を追求のために使い続けたことが批判されています。


ちょうど上院での公聴会の最中だったり、欧州が米巨大テック企業への規制を強めていたところという時勢的な状況も重なって、新聞テレビ等のマスコミはフェイスブックを大バッシング。国際的にも問題となっています。フェイスブックが独占的な立場を優位に利用して、ユーザのエンゲージメント(という名の従事時間)を最大化するよう、特に弱い立場にある10代への影響を知りながら、十分な対応をしてこなかったのは、そりゃーいかんだろう。(Timeの表紙はこんなふうになっちゃってる、キツっ)

一方、このメディアからの大バッシングに、冷めた目を向ける人もいます。(一言でいうと、もっとも基本的なU.Y.C.の事例) 落ち着いてみてみましょう。マスコミがフェイスブックを批判しているのは、「利益を最大化して、若者への悪影響を蔑ろにした」からですが、マスコミはその常習犯です。先ほどのTIMEの表紙がわかりやすいですが、今回の報道では、Facebook=ザッカーバーグとして象徴、一般化し、フェイスブックが悪い、というようにことをずいぶんと単純化してしまいがちです。これに対して、ウェブの世界の長老ともいうべきでしょうか(ブログ始めて27年だそう)Dave WinerはFacebookの内在する複雑性を単純化することを批判し、フェイスブックは我々だ、と投稿しています。その投稿の中では

「フェイスブックは言ってみればニューヨークみたいなものだ。もしタバコ会社の本拠地がすべてニューヨークにあったら、ニューヨーク市長が癌の元凶の犯罪者だって言っているようなもんだ。実際にフェイスブックはニューヨークの何百倍も大きいんだから、いろんなことがあるってことを理解してよ」と。

そして「フェイスブックがー」と言うのは焦点が定まらなさ過ぎので、その意味するところをしっかり検討するようにと口を酸っぱくして言っています。

Facebookとは・・・ 
1.マークザッカーバーグのこと
2.パブリックコーポレーションとしてのFB
3.60Kの従業員
4.サーバー、ソフトなどの技術
5. 広告プラットフォーム
6. ユーザコミュニティ
7.ウェブへと接続するもの
8. ビデオや画像、投稿、ライブ配信など、現在過去のあらゆるコンテンツのこと


マスコミのほとんども現在は、トラフィックの大部分やシステムをGAFAに頼っている(ニュースサイト訪問のほとんどはSNSからの流入)わけだし、確かにやっていることの構造はほとんど一緒です。

同様の指摘はこちらにも。

フェイスブックについて人よりもカネを優先する悪いと世間に伝えるなら、プレス(マスコミ)だって、同じことをしちゃいけないはずだ(でもしてる)。クリックベイト記事やとんでも記事でトラフィックを捻出したりしないってこと。

あと、面白かったのはコレ↓。新聞が、フェイスブック閉鎖や解体をに声を強めながら、この論争の最中、フェイスブックのサイトが一時アクセスできなかったことについて、咎める新聞記事に、どっちやねん!と突っ込みをいれている投稿。

新聞記事:「フェイスブックは邪悪!閉鎖すべき」
これも新聞記事:「フェイスブックは6時間落ちてたので、再発防止に努めるべき」(どっちやねん)

「私の言いたいことは、我々プレスが、他者にアカウンタビリティを求めるなら、自分自身についても、より高い水準を保つよう努めなければおかしい。もし、フェイスブックが人々のプライバシーを侵害していると、世間に伝えるならば、我々プレスも、同じように人々のプライバシーを侵害してはならないはず(だが、している) 」

内部告発から、単なるフェイスブック叩きに終始してしまうと、ことの論点を単純化しゆがめてしまい、本来議論すべき事柄や検討すべき選択肢がぼやけてしまうように見えます。

今回は、フェイスブックの内部告発により明らかにされた巨大テックの持つ強いパワーや不均衡について報道するはずのプレス(マスコミ)に対する批評をいくつか紹介しました。フェイスブックの問題をひも解いていくと、実はそれは自然と、インターネット以前の時代に、これまでマスコミが指摘されてきたことといくつかは同じ性質を持っている、ということに気づくと、マスコミ批評がこれまで展開してきた論点や規制のありかた(うまくいってないけど!)を巨大テック企業にも応用することができるというヒントをくれているように思います。

もちろん、編集者によるニュースの選別と、アルゴリズムにより自動化された選別や掲示というのは、背景の仕組みやその規模のインパクトが大きくちがうし、テック周りの法整備が未発達である、テクノロジーの複雑性への理解をほとんどの人は持ち合わせていないことから、巨大テック問題をどう解消すべきか、みんなで落ち着て議論するのがかなり難しい現状にあります。そうすると、今回の一件で、マスコミがフェイスブック叩きに走ることで、なんだか違う、インターネットの自由を侵す方向に走ってしまう可能性もあるということは留意しておかなければいけなさそうです。

次回は、くわしくそれ。

2021年3月19日金曜日

ミドルウェアはテックから民主主義を取り戻すか

珍しく、Foreign Affairsから。フランシス・フクヤマ(The End of Historyの人)や何人かスタンフォードのグループが、寡占テック産業がどのように民主主義の脅威となるか説明する記事を公開した。 

Foreign Affairs ビッグテックが民主主義を脅す

ビッグテックが民主主義を脅かす―― 情報の独占と操作を阻止するには ――フランシス・フクヤマ  スタンフォード大学 フリーマン・スポグリ国際研究所シニアフェロー バラク・リッチマン  デューク大学法科大学院教授、経営学教授 アシシュ・ゴエル  スタンフォード大学教授(経営科学)...

ここ数年英語圏では、テクノロジー企業が様々なコントロールパワーを持っていることへの批判が増大し、「テックラッシュ(techlash)」と呼ばれるテクノロジー企業の台頭へのバックラッシュを意味する造語が生まれた。同時に、巨大な力を持つプラットフォーム企業はGAFAという四文字となって、GAFAに対する批評がIT専門誌だけでなく、AtlanticやSalonなど現代文芸系の媒体で展開されてきた。こういう流れの中で、フランシス・フクヤマのような著名な政治経済学者が、民主主義の脅威という文脈でテクノロジー企業の寡占とその対策について執筆するのは自然だ。

記事の元となったのは、フランシス・フクヤマらによるスタンフォードの「プラットフォーム・スケール」ワーキンググループのホワイトペーパーだ。

Stanford Cyber Policy Center | Report of the Working Group on Platform Scale

The Program on Democracy and the Internet at Stanford University convened a working group in January 2020 to consider the scale, scope, and power exhibited by the digital platforms, study the potential harms they cause, and, if appropriate, recommend remedial policies....

Foreign Affairsの記事では、アメリカが直面する巨大テック企業がいかに民主主義を脅しているか、その脅威に気づいた規制当局がここ数年になって訴訟を起こしていること、こうした規制の強化は、テクノロジーの進化のペースにあまり効果を持たないこと、イノベーションの余地を残そうと解体してもまた同じようなことが起こること、と既存の取り組みの方向性が不十分であることをわかりやすく示している。これについてはその通りだと思う。

そして提案するのが、「ミドルウェア」なのである。
Image: Francis Fukuyama, Barak Richman, Ashish Goel,Roberta R. Katz, A. Douglas Melamed,Marietje Schaake,"REPORTOF THE WORKING GROUPON PLATFORM SCALE", STANFORD UNIVERSITY



雑に説明すると、プラットフォームとユーザの間にミドルウェアをかましましょう、それによってユーザが主体的に意思決定ができる、ないしはミドルウェアは機能として信頼性の高い情報をラベリングする、などというものだそうである。正直申し上げてシステムの絵としてしっくりこないのだが、ひとまず記事の描くミドルウェアを私の解釈に基づいて説明するとすればつぎのようなものがあると考えられる;

①プラットフォーム企業がミドルウェアを提供する。
ミドルウェアが情報に適切なラベル付けをする(例えば未検証情報のラベルをつけるなど)ことで、ユーザはミドルウェアを通じて信頼度の高い情報を入手できる。

②独立したミドルウェア提供会社がミドルウェアサービスを提供する。
ユーザの志向に合わせて、GAFAのコンテンツの上位に表示されるアイテムの重みを変動させるミドルウェアを提供する。例えば、国産のエコな商品だけを上位に表示させるなど。

③学校や非営利機関がミドルウェアを提供する。
地域の教育委員会が地域の出来事に比重を置いた結果を表示させるミドルウェアを提供するなどの例が考えらる。

①~③のいずれのパターンであっても、実現するうえで満たさなければいけない次のような要件があると考えられている。
  • まず、ミドルウェア提供側が技術的な透明性を持たなければならない。
  • またミドルウェア提供側が巨大な力を持つプラットフォーム上の別レイヤーとならないような仕組みが必要である。 
  • また、政策面ではプラットフォーム企業がAPIを提供するように義務付けなければいけない。 
  • さらに、ミドルウェアの健全な市場競争のために、プラットフォームへのアクセスによってミドルウェアにその収益の一部が入るようにしなければならない。(つまり、GAFAの利益をミドルウェアとシェアする)その共益がまともな関係になるよう政府が監督する。
正直、夢物語のように聞こえる。

この記事への反応をみると、テクノロジーによる民主主義への脅威や寡占問題の本質を詳細に定義していると評価するコメントが目立った。一方で、「ミドルウェア」という技術的な解決策については、あまりコメントがなかった。どうしてゆめっ物語のように聞こえるかというと、かつてミドルウェアのようなサービスがあったような気がするんだけど、GAFAにつぶされたんじゃなかったっけ?

その記憶を少したどってみよう。

そうでした、そんなようなサービスありました。
(ミドルウェアではなくサードパーティでしたが)

記憶①FriendFeed(その後Facebookが買収)
いろんなソーシャルメディアのフィードを一度に見れるサービスだった。Facebookに買収されてサービスは停止した。
@akihitoさんのブログの画像をお借りしています

記憶②Power.com

2008年頃にあったブラジル発のソーシャルメディアのアグリゲーションサービス。プラットフォームを跨ってコミュニケーションできるツールだった。が、著作権侵害等でFacebookに訴えられる。Power.com側はFacebookを外したが、裁判中にサービス終了。

記憶③Meebo(Googleが買収)
いろんなプラットフォームを跨いでチャット・メッセージができたが、のちにGoogleが買収してサービス終了


記事は決してサードパーティーサービスを指しているのではなくミドルウェアを指しているので、この記憶というのは直接記事に疑いをかける論点にはならないが、どうもミドルウェア解決案が腑に落ちない・・・。

記事中のミドルウェアは、オープンAPIのことを指しているのだろうか、と読んでいる最中に思った。しかし、ホワイトペーパーのほうにもオープンAPIによる解決策というような視点は出てこない。あくまで、プラットフォームのAPIを使う、なんらかの主体が提供するミドルウェアのようである。

そこに私はますます困惑。そもそもAPIを義務付けるぐらいなら、一層のこと相互運用性とオープンAPIを義務付ければプラットフォーム企業と共益関係を結ぶミドルウェア企業を制御しなくてもいいのでは・・・。

このあたりの理解を悩んでいたところ、TechdirtのMike Masonicが明確な指摘をツイートしていました。

ちょっと、安心。

フランシスフクヤマの指すのミドルウェアとはちょっと違うけれども、ユーザが選択するというような意味あいでは、元FCCのTom Wheelerが支持するOpen APIの形があるのを思い出した。これ聞いたのけっこう前だぞ・・・。

 

How to Monitor Fake News |Opinion NYT Tom Wheeler

This is true. And one effective form of information-sharing would be legally mandated open application programming interfaces for social media platforms. They would help the public identify what is being delivered by social media algorithms, and thus help protect our democracy...


しかし、Tom Wheelerさん、最近では、プラットフォーム規制監督庁(DPA)をつくるのがよい、というようなことも言っているようである。え・・・。


もう少し、テック企業のモノポリーについて、暗くならないように考えてみたいのだけど、いろいろてんこ盛りなので、次回に。

2020年5月14日木曜日

パンデミック、インフォデミック(自粛ポリス考その1)

緊急事態宣言で外出自粛が続く中、日本では「自粛ポリス」が問題になっています。今回は、自粛ポリス考(その1)として、その背景にある個人情報晒し(Doxxing)やヘイト、誤情報の関係について考えてみたいと思います。

他県ナンバー狩り、ネットで中傷...暴走する"自粛ポリス" | 2ページ目

「自粛警察」の事例 「自粛」とどう向き合うか 感染不安...他人にぶつけてカタルシス  休業要請の有無にかかわらず営業する店舗を非難したり、外出する人々をインターネット上で"告発"したり-。会員制 交流サイト (SNS)で「自粛警察(ポリス)」と呼ばれる動きによって、人権侵害につながるケースも生じている。 ...
自粛ポリスとは、外出や営業をする他者の行動に対してネット上で非難し個人攻撃することによって取り締まろうとする私刑行為と捉えればよいでしょう。今般のパンデミック以前からネット上で気にくわない他者に対して個人情報を晒すなどの嫌がらせをすることで自分の思う正義を果たそうとしてしまうネット私刑が定期的に表面化し問題となってきました。

加速するネットリンチの残酷、住所など個人情報晒しは法律的に「アウト」

10月に発覚した神戸市の教員間いじめ・暴行事件。加害者とされる教員たちの実名はもちろん、住所や家族の名前、職業などがネットで晒されている。個人情報を安易にネット上に書き込んでしまうネットユーザーたちが増えているからだ。しかし、こうした行動の多くは、法律的には「アウト」である。(フリージャーナリスト 秋山謙一郎) ...
こうしたネット私刑の問題は今に始まったことでもなければ、日本人特有の問題ではありません。ネットでの個人情報を晒す行為は、英語で"dox"と呼ばれています。情報を専門的に扱うプロフェッショナルである記者を囲うニューヨークタイムズは、情報セキュリティ研修の一環としてdoxxingの慣行から記者を守る方法を教え、その教材を公開しています。

How to Dox Yourself on the Internet

By Kristen Kozinski and Neena Kapur No one wants their home address on the internet. That is personal information we typically only give out to friends, family and maybe our favorite online stores. Yet, for many of us, that information is available and accessible to anyone with an internet connection.
ネット中傷の歴史を遡れば、1999年のスマイリーキクチ中傷被害事件も有名です。これには、ネットでの個人への行き過ぎた中傷とデマが横行することで相乗的に悪い影響をもたらした事例ですが、近年はSNSの特定のユーザにはより好ましい情報だけを提供するようなアルゴリズムなどがより効果的に作用しフィルターバブルを作ることでサイバーカスケードが一層起こりやすくなり、フェイクニュース問題が生まれ、世界的にデマや意見の先鋭化の温床となっています。

COVID19のパンデミックに際しては、感染症に加えて誤情報が蔓延する危機的な事態「インフォデミック」への懸念から、誤情報への対策が声高に叫ばれてきましたが、誤情報対策だけではなく「ヘイト」対策の視点が重要だと私は思います。

今のような形のSNSが一般化する以前、ヘイトの拡散に影響力を持つ主体はマスメディアで、日本は国連自主差別撤廃委員会から2010年の勧告(日本語PDF)で次のような指摘を受けていました。

26.人権相談窓ロの設置や人権教育や促進など締約国によってとられた人種的偏見をなくすための措置に留意しながら、委員会はメディアに関して、そしてテレビやラジオ番組への人権の取リ込みに関して具体的な情報が欠如していることに懸念をもち続ける(第7条)。 委員会は締約国が、人種差別撤廃を目的として、寛容および尊重の教育目的を取り入れながら、日本国籍者および非日本国籍者双方の社会的に弱い立場にある集団に関する問題が、適切にメディアで表現されることを保障する公教育および啓発キャンペーンを強化するよう勧告する。委員会はまた、締約国が、人権教育の向上におけるメディアの役割に特に注意を払い、メディアや報道における人種差別につながる人種的偏見に対する措置を強化することを勧告する。加えて、ジヤーナリストやメディア部門で働く人びとに人種差別に関する意識を向上させるための教育および研修を勧告する。
またインターネット上のヘイトに関連する事項では
13.締約国が提供した説明に留意しつつも、委員会は条約第4条(a)(b)の留保を懸念する。委員会はまた、韓国・朝鮮学校に通う子どもたちなどの集団に向けられる露骨で粗野な発言と行動の相次ぐ事件と、特に部落民に向けられたインターネット上の有害で人種差別的な表現と攻撃に懸念をもって留意する。
この勧告と事態の発展からその後2014年以降の日本のヘイトスピーチ規制への流れへ向かっていきます。この時点ではヘイトスピーチ規制はあくまでエスニックマイノリティなど特定の集団を攻撃から保護・救済するというような受け取られ方が中心的だったように思いますが、もっと本質的な懸念は、この特定の集団というのがいつ自分の所属する集団と同義になるやもしれない、という点です。定義としてヘイトスピーチやヘイトクライムは弱い立場にある特定集団に限定されていますが、ヘイト行そのものが拡散する原理は、ヘイトの対象に限らず同じ環境にあります。かつてインターネット上の問題はインターネット上の問題(としてとどまる)、と捉えられていた時期がありましたが、Web2.0以降から徐々にシフトし、それは現実社会にも害をもたらすので合算して取り組まなければいけない(つまりインターネットの安心安全を扱うものと、例えば実際の人権問題を扱うもの、とが合同で取り組まなければならない課題)という課題意識が共有されてきています。それでも、取り組む当局および市民社会の体制としてはその二者がいまだ断絶しているケースも少なくないように感じられます。

前置きが恐ろしく長くなりましたが、今回の自粛ポリス、というのもデマとヘイトが手を結んで大きな力をネットから飛び出して現実社会へ影響をもたらしてきている延長です。かつてメディアではヘイトの拡散の防止の措置として、記者やメディアで働く人々への教育や研修が有効な手段として提言されていたという過去を振り返ることができます。このことは、誰でも情報発信できるようになった今、ネットメディアやユーザへの教育に期待されるものと捉えられます。

さらにメディア批評の過去を振り返ると、専門集団であってもマスコミが誤報や中傷を拡散してしまった経緯としてそのビジネスモデルや構造が指摘されていました。商業メディアにとってはセンセーショナルであればウケる、感情的で扇動的であれば部数が伸びる、視聴率を武器に広告収入を得る、スクープをとれば賞をもらえたり昇進できる、というような点です。こうした構造的な問題は、広義での広告収入で成り立つネットメディアも引き継いでいます。ではこれについてどうすればいいのか。

センセーショナルであることで知られるイギリスのタブロイド紙が流布するヘイトに対抗しようと2016年に始まったキャンペーンの母体となるStop Funding Hateは、デジタル広告を出稿する企業が道徳的に広告出稿先を選ぶべき、と取り組んでいます。具体的には、タブロイド紙のヘイト記事のモニタリングや、ヘイトを増幅させるような見出し(いわゆるクリックベイト clickbait)をつける媒体へ広告を出す企業への抗議や不買運動のような取組です。下記のリンクでは、今回のパンデミックにおいてもタブロイド紙が、移民や特定の宗教を信じる人々に対して誤った情報からセンセーショナルな記事を誤報発覚後も掲載し続け広告収入を得てていることや、恐怖や不安に取り組んで陰謀論を展開するYoutube動画が広告収入を得ていることなどを指摘しています。この取組の興味深い点は、一般に誤情報やヘイトの拡散の問題についてはSNSなどのプラットフォームが原因として注視されがちであるのに対し、Stop Funding Hateは、原因追及の矛先をプラットフォームではなく広告(または広告主)に向けているという点です。そして、ユーザが自分の好きな企業の広告が危うい誤情報記事に掲載されていたのなら、広告主に知らせてあげましょう、と呼び掛けています。

The drive for clicks: The coronavirus, misinformation and digital advertising

Online media and digital advertising go hand in hand. Media companies need advertising to make money, so they write articles that get as many clicks as possible. This often means sensationalism, the use of fear and, sometimes, using hate. And sadly, this doesn't change in times of a global pandemic.

ただネット広告の仕組みは多くの場合、技術的に非常に複雑・高度で、具体的にどのようなコンテンツに広告が掲載されるか広告主には自明ではありません(たとえばRTB)。だから、Stop Funding Hateがいくら広告主に知らせたところで「広告主が目視で選別したわけじゃない、そういうアドテクだから仕方がない」と言われればそこまでのような気もします。おそらく媒体のモニタリング活動と併せて行うことで、特定のタブロイド紙には広告出すな、とし、こうした意識を広めることで、媒体そのものが利益のためにはヘイトや偏見を流布しないほうがよい(そうしないと広告が入らない)、と判断してくれる旗振りしていくことは(頑張れば)できるでしょうが、アドネットワークの仕組みを考えるとずいぶん限定的な効果しかもたらさないような気もします。(というかユーザ側もそういうネット広告はスキップ、スクロールしちゃうからなんの広告が出てたか記憶さえしてなよね?!レイバンくらい!?あとコメントボックスとかでヘイトが展開されたらそれも?)

余談ですが広告の話になってきて、なんだかぶり返すものがありますよね。―漫画村です。

「望んで広告を出しているものではない」 海賊サイト広告問題、出稿していた大手企業の言い分は

海賊版サイトの主な資金源となっていた「広告主」が問題になっている件で、ねとらぼ編集部は海賊版動画サイト「MioMio」に広告を表示していた企業に取材しました。なお取材との関連性は不明ですが、編集部が取材した翌日、当該部分の広告枠が削除されたのを確認しています(また時を同じくして、動画の再生ページ自体も削除され、現在は動画が見られない状態となってます)。 ...

誤情報の拡散を断ち切るには、なんらかの法律でもって当局による規制をするか、業界団体などによる自主規定(そういえばその後どうなったのかな)、媒体やプラットフォーム企業が自らを律する、もしくは一般ユーザの教育啓蒙などが常套手段のようですが、今回パンデミックに際しては、ネットの問題と実際社会で起きていることをあわせて考える必要があることをより一層明らかにしているように思います。

自粛ポリスのような過剰な個人攻撃が増えたり、炎上案件がでてきたりするのには、パンデミックの影響で人との接点が減り、ネットを利用する機会や時間が急激に増え、パンデミックの不安やストレスを抱え、やり場のない気持ちを、ネットで得た正しくない情報やな知識を根拠に、自分より非難されるのが妥当であると考える相手に向けてしまっていることがあります。逆に言えば、パンデミック以前にヘイトクライムやネットの言説を真に受けて犯罪手前に向かってしまった人たちは、そういう環境にあった。たとえ、規制をしていってクリーンなインターネットを一時的につくったとしても、現実世界に救いがなく荒れたままなら、いたちごっこのような気がします。(なんだかヒップホップVSアメリカ論争を思い出しませんか?)

ネットの利用時間が増えることで増大する不安については、データデトックスを普及させることが有効ですが、それにしても、メディアとしての問題から一歩(や、もっと?)外に出て、悪者探しに怒り嫌悪を抱くというような時代の精神性を見つめていかなければいけないのかもしれません。

自粛ポリス考(その2)は、自粛ポリスについてアメリカの自警団、アプリによる政治キャンペーンについて参考に考えてみたいと思います。

2020年1月30日木曜日

新型コロナウイルスと誤情報の拡散

香港大学のジャーナリズム・メディアスタディーズ研究所がアジアニュース情報教育者ネットワークと協働で立ち上げたファクトチェックのためのプロジェクトで、新型コロナウイルスに関する誤情報をとりまとめてくれています。

香港大学が、2月17日まで開講延期となっていることを受けて、手軽にニュース等をキュレーションすることができるFlipboardというアプリを使って、新型コロナウイルスについての検証記事を集積したもので、英語に限らず、フランス語や日本語の検証記事も寄せられております。

現在のコロナウイルスに関するネット上の言論は、誤情報の温床となる要因が整っています。まず、ウイルスが新型でありわかっていないことが多く、情報が欠如していることです。これは、マイケル・ゴールビーウースキーとダナ・ボイドらマイクロソフトの研究者が、誤情報の原因環境を分析したペーパーで2018年に「Data void」(データが空である状態) と名付けています。

Data Voids

Michael Golebiewski of Microsoft coined the term "data void" in May 2018 to describe search engine queries that turn up little to no results, especially when the query is rather obscure, or not searched often.
実際にvoid状態にあったかどうか、検索トレンドを確認してみましょう。2020年1月の途中から急遽検索ワードとして上昇したのであって、新型ウイルスであることからすれば当然ですが、それまでは検索されておらず、それらのニーズを満たす検索結果も欠如していたことがわかります。

二つ目の要因として、異文化・多言語などの国際的な要因です。ウイルスは国境を越えて影響をもたらします。初期の発症は中国であり、中国語の一次情報を得て読解することが難しいという環境にあります。その後はWHOの公式見解などが英語で発表され、フランスやオーストラリアなど各国の対応策についても報道されるところとなります。いずれも国境・言語・文化を越えた解釈が必要です。武漢がシャットダウンされるとより、現地の情報を収集しづらくなってしまし、その一方でSNSでは現地人と自称する出所のわからない動画などが拡散されています。よく誤情報の温床となる事件速報に対する消費者向けガイドとしてWNYCがまとめた速報ニュースを見るときの9つの心得には、「事件と距離の近い地元メディアの報道に着目しよう」「複数の情報源を比較しよう」「最初は報道機関も間違えるということを意識しよう」などと書かれています。

しかし武漢が地元だという人以外にとって、現地メディアの情報を取得するのはハードルが高すぎますし、中国の報道の自由を考えると地元メディアや現地語ニュースさえも信頼しにくい状況にあり、ますますVoid状態を加速させます。AtlanticのHow to Misinform Yourself About the Coronavirus「コロナウイルスについて誤情報を受け取る方法」という逆説的な記事では、アメリカ英語圏において拡散された誤情報についてその背景として「ほとんどのアメリカ人は中国語を理解しない」「WeiboやWeChatを利用していない」ことから、WeiboやWechatを使って情報収集し英語でツイッターに投稿するだけで、塵が金の価値になるというメディア環境についても触れています。さらに米中二国間の政治経済的な競争も忘れてはならない要因の一つです。

記事では、公衆衛生学の研究者で博士号を持つユーザーがツイッターに投稿したSARSよりも危険だと主張する論文を読んだリアクションコメントが大いに注目されてしまい、のちにその論文に査読がなかったことや、配慮すべき数値や環境が不十分であることを指摘されツイートを削除しているのですが、誤解を招く投稿のほうが、指摘の事実を述べるほかのユーザの投稿より圧倒的に拡散されてしまっていることも罹れています。

ほかに、Buzzfeedでも指摘されていますが、身元不明のツイッターアカウント(Youtuberらしいが偽名)が、ひたすらコロナウイルスに関する動画をあちこちからリップして再投稿し、多くの人たちが情報源として誤って信頼してしまっています。

近年、誤情報の拡散に歯止めをかけようと伝統的な報道機関だけでなく、ネットニュース企業、プラットフォームも様々な対策を取り組んでくれています。例えばAFPは、コロナウイルスの誤情報の問題についてまとめた記事を公開しています。(正直、書き方はイマイチだと思う)。Buzzfeedは、ネットの誤報、誤情報と戦い続けてもう15年以上の経歴を持つ、打倒・誤情報のゴッドファーザーとも言えるRegret the Error創始者のCraig Silvermanが率いていることもあり、戦略的にも、いわゆる”Debunk”記事に力をいれています。

Youtube/Googleは、フェイクニュースや陰謀論対策として、2018年に「authoritative contents」の導入を発表して、信頼できる報道機関による情報を検索結果に対して優位に位置づける仕組みを始めましたが、今回も新型コロナウイルスについてより権威付けされた情報が結果に反映されるよう動いているようです。

Facebook, Google and Twitter scramble to stop misinformation about coronavirus

The rapid spread of the coronavirus in China and around the world has sent Facebook, Google and Twitter scrambling to prevent a different sort of malady - a surge of half-truths and outright falsehoods about the deadly outbreak.
2018年当時このauthoritative contentsの発表を聞いたときは、対策措置として動いてくれたことに安堵する一方、インターネットが目指したメディアって何だったんだろう…というちょっとした心の穴ができました。だって、その語彙といい、なんかもうthe end of the internet as we know it ネットのおしまい感が半端なくって、どう受け止めたらよいやら、という感じでしたし、今も受け止め方がわかりません(苦笑)。ちなみにAuthoritative Cotentsの仕組みは、例えば陰謀論者がよく「人類の月面着陸は嘘だった」と主張しますが、「月面着陸」と検索したときに、ブリタニカ国際大百科事典の説明を表示させ、さらに検索結果の動画のうち、信頼できる報道機関のアカウント(USA TODAYやNASAなど)の動画を上位にする、というものです。いや~陰謀論者は「Googleも一緒に隠ぺいしている!」と逆に燃えそうですが…。新型コロナウイルスはまだ百科事典にも載ってないでしょうし、英語と中国語で全く別のプラットフォームを使う別の言論空間でどのくらい効果が発揮できるものかなぁ、と💦

YouTube has a plan to boost "authoritative" news sources and give grants to news video operations (2018)

Google-owned YouTube on Tuesday announced a few improvements it intends to make to the news discovery and viewing experience. The platform has had a bit of a bad run recently: surfacing videos that accuse mass-shooting survivors of being crisis actors, hosting disturbing videos targeting children, ...


ファクトチェック記事も様々です。(例えば、INSIDERの記事は、アドブロックなしにはとても読めないぐらい広告が貼られています・・・)誤情報は悪、ファクトチェックは善と完全に決めつけずに、それぞれの媒体の特徴を配慮しながら読解するのがいい訓練になるように思います。(場合によっては書き方が不適切なファクトチェック記事は、かえって誤情報を拡散するとも言われています)

そして、生真面目に情報の真偽を確かめたいという場合、実際にどんなプロセスを踏めばいいのか、FirstDraftのチェックリストを見ておきましょう。(日本語字幕)

2017年4月1日土曜日

ウソの情報が広がる理由と対処方法は?

エイプリルフールですね。とはいえ、以下は真摯に書いてます。

偽りの情報について、昨今話題となっているフェイクニュースやネット上のデマ、事実と異なる検証されていない情報や誤報などをひっくるめたミスインフォメーションについて取り上げたいとおもいます。

コミュニケーションと社会変革との関係について取り上げるカンファレンス「Frank」(主催:フロリダ大学のCollege of Journalism and Communications)にて、misinformation をテーマに新書を出す予定の Brian Southwellが10分程度の講演をしています。 

Brian Southwell: “Why misinformation happens and what we can do about it”

短い時間で、マスコミニケーションと誤報、ファクトチェックとフェイクニュースについてどう解釈し対応すべきか、端的にまとめられています。 「情報の真偽に関わらず人々は、新しい情報がきたらまずその情報を受け入れ解釈した後に、正誤のラベルを貼り付ける」と論じたスピノサを参照し、つまりなんだかんだで情報を受け入れてしまう行為がさっそく誤報を受け入れる間口を作ってしまっているのだと話しています。

なお、ここで指している「ミスインフォメーション」は、報道機関の誤報に限らず、事実出ないにもかかわらず、まことしやかに拡散され受け手が鵜呑みにしてしまうケースや、捏造された虚偽の情報なども含んでおり、ジャーナリズム史を遡ること、米西戦争時のでっちあげ報道(新聞社が発行部数競争のさなか、事実に基づかないで捏造した記事で戦争をあおるなど)や、火星からの侵略(ラジオドラマ「宇宙戦争」のリスナーたちが火星人が本当に来たと勘違いして大混乱が起きた事件)を参照するだけでなく、最近のワクチンの危険性を訴える陰謀論の拡散を例にとり、昨今のネットに広がる科学的根拠に基づかないエセの健康情報、デマ、さらにはトランプ大統領にまつわるフェイクニュースについても総括しています。

そしてこれらのミスインフォメーションがやっかいな理由は次の3つの点であるとしています

  1. 人々は情報の正誤を問わず情報を受け入れる傾向にあること(脳の一部が情報を処理し、その情報の検証をするのは脳の別の部分である)
  2. アメリカの誤情報に対する規制は、予防でなく事後検知である。正確な情報であるかどうかは実際に起きてからでないと証明できない。(例:FCCやFDAは見つけた違反に対して取締りを行なうが、違反が起きないようにすることはできない) 情報を検閲しない社会であることが、ミスインフォメーションの入り口をつくってしまっているとSouthwell教授は論じている。
  3. 訂正は可能であるが困難。「害のあるメッセージを届ける広告キャンペーンに対抗するには、同じレベルのカウンターメッセージが必要」であり、「火をもって火を制す」しかない。
Southwellはユーモアを交えた面白いスピーチで、冗談から話を始めています。
ウソだって、じっくり聴いてしまうものです。後からウソをついていたとわかったら来年は講演できないでしょうが、その場でステージから引き釣り下ろされたりはしません。とても聴きやすい魅力的なスピーチなのでぜひビデオをご覧ください。

このトークの私が好きな点は、ミスインフォメーションの定義づけに終始するのではなく、現実問題について語っているところです。定義や分類に時間を費やしがちで本筋の議論ができてない学術的議論よりも、様々なタイプのミスインフォメーションについてひっくるめて話してくれていることで、現実に対処しようとしている実践的な意気込みが感じられます。また、ミスインフォメーションを生むやっかいな環境について、その3点そのものが「悪」であるとは論じてないところも好きです。一生懸命調べて報道しても後に訂正が必要なこともあるものです。規制体制が事後であり検閲がないことについて、情報を「sanitize(消毒する、クリーンにする)していない」のはいいことだと話しています。

日本でもキュレーションメディアによる不適切な引用が元で健康に関する、事実に基づかない情報がネット上にあふれたことが問題となりましたが、これもミスインフォメーションによるやっかいなできごとでした。こうしたミスインフォメーションが流れたことについて情報が「汚染」されたと呼ぶ考察がありましたが、私はそれは不適切な言葉の扱いだと強く感じます。クリーンなインターネットを望むことと、特定の情報について「汚染している」と呼ぶことは別です。「フェイクニュース」にしても「情報汚染」にしても、新しい語を用いて事象を解説しようとしがちです。そんな中、Southwellのスピーチは本質について考えさせてくれる楽しいきっかけを生んでくれているように思います。

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Frankについて
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