ラベル fact-check の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル fact-check の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2024年3月7日木曜日

ヘッジファンドとローカルジャーナリズム

 オーナーシップを確認することは、メディアやそのコンテンツを分析するもっとも端的な方法の一つ。オンラインメディアが浸透し、ネット上の情報にアクセスできるようになったことで、アメリカの地方紙は、紙媒体から電子媒体へのデジタル化しビジネスモデルを転換を迫られた、苦難がともないました。地方紙の経営危機に乗じて、ヘッジファンドが地方紙を買収するケースが2010年代から2020年代にかけて増加。その結果、なにが起きたか。民主主義社会において、地方紙が担う機能は何かといったテーマに着目したドキュメンタリーが公開されています。


経営難で倒産したり買収されたりすることは、ここ10年くらいでいろいろなところでぽつぽつあったのですが、その固有の事象を、一つのトレンドとして俯瞰し、さらにプレスの機能の文脈、つまり現代の情報の流通の倫理の側面から解釈できる良作です。

メディアオーナーシップは、新しい問題ではありません。メディアのオーナーシップと、民主主義の関係を一番声高に政治問題として語っているのは、バーニー・サンダーズ。こちらの出馬時の広報サイトが論点をよくまとめてくれてあります。昔から、バーニーはこの問題意識が強かったことを表す懐かし映像をいくつか↓↓↓

バーモント州チッテンデン郡のコミュニティケーブル放送CCTVで1987年放送の映像で、バーニーサンダーズがメディアオーナーシップについてインタビューしています。
こちらはアビー・ホフマンと。この動画は一時期MotherJonesに掘り出されて一時期話題になりましたね。

出馬時、メディア規制の在り方を一つの争点としてキャンペーンしていたので、オピニオン記事を寄稿して、次のように語っています。
残念ながら、1960年にA.J.リーブリングが書いたように 「報道の自由は、報道機関を所有する者にのみ保証される。そして、報道機関、ラジオ局、テレビ局、書籍出版社、映画会社を所有する人々は、ますます少なくなり、ますます大きな権力を持つようになっている。これはもはや無視できない危機である。

当時は、メディアの寡占と民主主義の情報流通の問題でしたが、今回はヘッジファンドがローカルニュースを買っているという問題で、寡占とは別の問題です。どちらも資本やオーナーシップの問題という点では同じですが。

ヘッジファンドという新しいプレーヤーがアメリカのジャーナリズムに影響を与えていることについて、最近報道が増えてきました。というのも「ヘッジド:民間投資ファンドはいかにしてアメリカの新聞を破壊し、民主主義を弱体化させたか?」という本が出たんですね。


On the Mediaでも紹介されていました。

2020年2月28日金曜日

シニア向けフェイクニュース対策ワークショップ

プリンストン大学とNY大学ソーシャルメディア政治参加ラボの共同研究によると、2016年のアメリカ大統領選挙期間中にフェイクニュースをシェアしたのは、アメリカ国民のうちわずか9パーセントにとどまるという論文が発表されました。この論文の注目すべき点は、世代によってフェイクニュースを拡散しやすい傾向があることを次のように示しているところです。

「18歳から29歳のユーザでは3パーセントがフェイクニュースサイトから記事の拡散を行った。その一方で、65歳以上では11パーセントとなった」

Fake News Shared by Very Few, But Those Over 65 More Likely to Pass on Such Stories, New Study Finds

To identify "fake news" sources, the researchers relied on a list of domains assembled by Craig Silverman of BuzzFeed News, the primary journalist covering the phenomenon in 2016. They classified as fake news any stories coming from such sites. They supplemented this list with other peer-reviewed sources to generate a list of fake news stories specifically debunked by fact-checking organizations.
 ということは、シニア向けのリテラシー対策をすることが重要ではないか、ということでテクノロジー企業の支援を受けシニア世帯向けのIT推進を行うNPOシニアプラネットがワークショップ「フェイクニュースの見つけ方」を開催したそうです。

※このシニアプラネットというNPOですが、なかなか立派で、テクノロジーレビューではシニア向けのコワーキングスペース(セミナーや支援もあり)が取り上げられています。

With An Election On The Horizon, Older Adults Get Help Spotting Fake News

At the Schweinhaut Senior Center in suburban Maryland, about a dozen seniors gather around iPads and laptops, investigating a suspicious meme of House Speaker Nancy Pelosi. Plastered over her image, in big, white block letters, a caption reads: "California will receive 13 extra seats in Congress by including 10 million illegal aliens in the 2020 U.S.
シニア世代がフェイクニュースに弱い背景には「確証バイアス」があるからだとの考察もあります。 過去の経験からそうだと思ったことを強化する情報があればそれを肯定するようにして信じてしまう傾向は年齢とともに強まるのも無理はないでしょう。そしてもう一つには、独りで過ごす時間が長いため、スクリーンに向かってシェアしてしまう、というようなこと。

日本ではもっとニーズがありそうですね。

2020年1月28日火曜日

科学的クライシスで命が大事

新型コロナウイルスについて、報道が過熱しています。ウイルスの感染を防ぎ衛生に勤めるよう注意するのは結構なことですが、日本語圏のネット上では、病原への理解を深めないまま、恐怖を煽るようなコメントや移動の自由を制限する感情的なコメントが良く拡散されています。実際に中国当局は渡航禁止や移動の制限などに乗り出し、カレンダー通りであれば旧正月のにぎやかなひと時のはずが、帰省を取りやめたり、外出を控える人たちが少なくないようで人々も真剣に対応しているようです。一方中国語のネットメディア、いわゆる朋友圏においても、やはり同様に自体の深刻さや恐怖について記述した投稿が目につきます。

日本語圏で目についたのが、人命が大事なのだから、中国人の入国を禁止しろ、というツイート。主義主張についてはどうこう言うつもりありません。いくつか載せてみます。



新型ということで感染経路にしても、海のものとも山のものともわからないようなところはあるのかもしれません。危機管理という点では、渡航禁止等も一手ととらえるのも当局次第です。ただ、そこに急遽「命」という話が出てくるのに違和感を覚えると同時に、なんだか見覚えのある構造の文章だなぁと思いました。

今すぐ   禁止しろ!最優先だ!

なにか見覚えのある言い回し。東日本大震災後の放射能汚染と原発についてのつぶやきのことを思い出しました。 例えばこんなもの。

後者のほうが少々語気が穏やかではありますが。。
ちなみに前者のコロナウイルスに関してのツイートで命が大事といった人たちは、日の丸アイコン。後者の再稼働反対のツイートはネットでは、安倍政権に反対することからサヨクと言われることが多いようです。それぞれ全く別の政治的属性に区分けされますが、「命が大事」というところから演繹的に政治的なアクション(入国禁止や廃炉)を訴求しようと強く訴えたい。それぞれの主義や主張についていいとか悪いとかいうことではなく、なんというか科学的なクライシス(未解明の新ウイルス発症、原子力事故)が起こると、それに対して、何かを禁止すると命が守られる、もしくは何かを禁止しないので命が政治のせいで危険にさらされている、と解釈されることがあるのだなぁ、と思いました。

なんか似てたんで、並べたかったそれだけです。

2017年4月1日土曜日

ウソの情報が広がる理由と対処方法は?

エイプリルフールですね。とはいえ、以下は真摯に書いてます。

偽りの情報について、昨今話題となっているフェイクニュースやネット上のデマ、事実と異なる検証されていない情報や誤報などをひっくるめたミスインフォメーションについて取り上げたいとおもいます。

コミュニケーションと社会変革との関係について取り上げるカンファレンス「Frank」(主催:フロリダ大学のCollege of Journalism and Communications)にて、misinformation をテーマに新書を出す予定の Brian Southwellが10分程度の講演をしています。 

Brian Southwell: “Why misinformation happens and what we can do about it”

短い時間で、マスコミニケーションと誤報、ファクトチェックとフェイクニュースについてどう解釈し対応すべきか、端的にまとめられています。 「情報の真偽に関わらず人々は、新しい情報がきたらまずその情報を受け入れ解釈した後に、正誤のラベルを貼り付ける」と論じたスピノサを参照し、つまりなんだかんだで情報を受け入れてしまう行為がさっそく誤報を受け入れる間口を作ってしまっているのだと話しています。

なお、ここで指している「ミスインフォメーション」は、報道機関の誤報に限らず、事実出ないにもかかわらず、まことしやかに拡散され受け手が鵜呑みにしてしまうケースや、捏造された虚偽の情報なども含んでおり、ジャーナリズム史を遡ること、米西戦争時のでっちあげ報道(新聞社が発行部数競争のさなか、事実に基づかないで捏造した記事で戦争をあおるなど)や、火星からの侵略(ラジオドラマ「宇宙戦争」のリスナーたちが火星人が本当に来たと勘違いして大混乱が起きた事件)を参照するだけでなく、最近のワクチンの危険性を訴える陰謀論の拡散を例にとり、昨今のネットに広がる科学的根拠に基づかないエセの健康情報、デマ、さらにはトランプ大統領にまつわるフェイクニュースについても総括しています。

そしてこれらのミスインフォメーションがやっかいな理由は次の3つの点であるとしています

  1. 人々は情報の正誤を問わず情報を受け入れる傾向にあること(脳の一部が情報を処理し、その情報の検証をするのは脳の別の部分である)
  2. アメリカの誤情報に対する規制は、予防でなく事後検知である。正確な情報であるかどうかは実際に起きてからでないと証明できない。(例:FCCやFDAは見つけた違反に対して取締りを行なうが、違反が起きないようにすることはできない) 情報を検閲しない社会であることが、ミスインフォメーションの入り口をつくってしまっているとSouthwell教授は論じている。
  3. 訂正は可能であるが困難。「害のあるメッセージを届ける広告キャンペーンに対抗するには、同じレベルのカウンターメッセージが必要」であり、「火をもって火を制す」しかない。
Southwellはユーモアを交えた面白いスピーチで、冗談から話を始めています。
ウソだって、じっくり聴いてしまうものです。後からウソをついていたとわかったら来年は講演できないでしょうが、その場でステージから引き釣り下ろされたりはしません。とても聴きやすい魅力的なスピーチなのでぜひビデオをご覧ください。

このトークの私が好きな点は、ミスインフォメーションの定義づけに終始するのではなく、現実問題について語っているところです。定義や分類に時間を費やしがちで本筋の議論ができてない学術的議論よりも、様々なタイプのミスインフォメーションについてひっくるめて話してくれていることで、現実に対処しようとしている実践的な意気込みが感じられます。また、ミスインフォメーションを生むやっかいな環境について、その3点そのものが「悪」であるとは論じてないところも好きです。一生懸命調べて報道しても後に訂正が必要なこともあるものです。規制体制が事後であり検閲がないことについて、情報を「sanitize(消毒する、クリーンにする)していない」のはいいことだと話しています。

日本でもキュレーションメディアによる不適切な引用が元で健康に関する、事実に基づかない情報がネット上にあふれたことが問題となりましたが、これもミスインフォメーションによるやっかいなできごとでした。こうしたミスインフォメーションが流れたことについて情報が「汚染」されたと呼ぶ考察がありましたが、私はそれは不適切な言葉の扱いだと強く感じます。クリーンなインターネットを望むことと、特定の情報について「汚染している」と呼ぶことは別です。「フェイクニュース」にしても「情報汚染」にしても、新しい語を用いて事象を解説しようとしがちです。そんな中、Southwellのスピーチは本質について考えさせてくれる楽しいきっかけを生んでくれているように思います。

Frankのそのほかの講演はこちらから視聴できます。
https://vimeo.com/frankgathering/videos

Frankについて
http://frank.jou.ufl.edu/