2021年3月19日金曜日

ミドルウェアはテックから民主主義を取り戻すか

珍しく、Foreign Affairsから。フランシス・フクヤマ(The End of Historyの人)や何人かスタンフォードのグループが、寡占テック産業がどのように民主主義の脅威となるか説明する記事を公開した。 

Foreign Affairs ビッグテックが民主主義を脅す

ビッグテックが民主主義を脅かす―― 情報の独占と操作を阻止するには ――フランシス・フクヤマ  スタンフォード大学 フリーマン・スポグリ国際研究所シニアフェロー バラク・リッチマン  デューク大学法科大学院教授、経営学教授 アシシュ・ゴエル  スタンフォード大学教授(経営科学)...

ここ数年英語圏では、テクノロジー企業が様々なコントロールパワーを持っていることへの批判が増大し、「テックラッシュ(techlash)」と呼ばれるテクノロジー企業の台頭へのバックラッシュを意味する造語が生まれた。同時に、巨大な力を持つプラットフォーム企業はGAFAという四文字となって、GAFAに対する批評がIT専門誌だけでなく、AtlanticやSalonなど現代文芸系の媒体で展開されてきた。こういう流れの中で、フランシス・フクヤマのような著名な政治経済学者が、民主主義の脅威という文脈でテクノロジー企業の寡占とその対策について執筆するのは自然だ。

記事の元となったのは、フランシス・フクヤマらによるスタンフォードの「プラットフォーム・スケール」ワーキンググループのホワイトペーパーだ。

Stanford Cyber Policy Center | Report of the Working Group on Platform Scale

The Program on Democracy and the Internet at Stanford University convened a working group in January 2020 to consider the scale, scope, and power exhibited by the digital platforms, study the potential harms they cause, and, if appropriate, recommend remedial policies....

Foreign Affairsの記事では、アメリカが直面する巨大テック企業がいかに民主主義を脅しているか、その脅威に気づいた規制当局がここ数年になって訴訟を起こしていること、こうした規制の強化は、テクノロジーの進化のペースにあまり効果を持たないこと、イノベーションの余地を残そうと解体してもまた同じようなことが起こること、と既存の取り組みの方向性が不十分であることをわかりやすく示している。これについてはその通りだと思う。

そして提案するのが、「ミドルウェア」なのである。
Image: Francis Fukuyama, Barak Richman, Ashish Goel,Roberta R. Katz, A. Douglas Melamed,Marietje Schaake,"REPORTOF THE WORKING GROUPON PLATFORM SCALE", STANFORD UNIVERSITY



雑に説明すると、プラットフォームとユーザの間にミドルウェアをかましましょう、それによってユーザが主体的に意思決定ができる、ないしはミドルウェアは機能として信頼性の高い情報をラベリングする、などというものだそうである。正直申し上げてシステムの絵としてしっくりこないのだが、ひとまず記事の描くミドルウェアを私の解釈に基づいて説明するとすればつぎのようなものがあると考えられる;

①プラットフォーム企業がミドルウェアを提供する。
ミドルウェアが情報に適切なラベル付けをする(例えば未検証情報のラベルをつけるなど)ことで、ユーザはミドルウェアを通じて信頼度の高い情報を入手できる。

②独立したミドルウェア提供会社がミドルウェアサービスを提供する。
ユーザの志向に合わせて、GAFAのコンテンツの上位に表示されるアイテムの重みを変動させるミドルウェアを提供する。例えば、国産のエコな商品だけを上位に表示させるなど。

③学校や非営利機関がミドルウェアを提供する。
地域の教育委員会が地域の出来事に比重を置いた結果を表示させるミドルウェアを提供するなどの例が考えらる。

①~③のいずれのパターンであっても、実現するうえで満たさなければいけない次のような要件があると考えられている。
  • まず、ミドルウェア提供側が技術的な透明性を持たなければならない。
  • またミドルウェア提供側が巨大な力を持つプラットフォーム上の別レイヤーとならないような仕組みが必要である。 
  • また、政策面ではプラットフォーム企業がAPIを提供するように義務付けなければいけない。 
  • さらに、ミドルウェアの健全な市場競争のために、プラットフォームへのアクセスによってミドルウェアにその収益の一部が入るようにしなければならない。(つまり、GAFAの利益をミドルウェアとシェアする)その共益がまともな関係になるよう政府が監督する。
正直、夢物語のように聞こえる。

この記事への反応をみると、テクノロジーによる民主主義への脅威や寡占問題の本質を詳細に定義していると評価するコメントが目立った。一方で、「ミドルウェア」という技術的な解決策については、あまりコメントがなかった。どうしてゆめっ物語のように聞こえるかというと、かつてミドルウェアのようなサービスがあったような気がするんだけど、GAFAにつぶされたんじゃなかったっけ?

その記憶を少したどってみよう。

そうでした、そんなようなサービスありました。
(ミドルウェアではなくサードパーティでしたが)

記憶①FriendFeed(その後Facebookが買収)
いろんなソーシャルメディアのフィードを一度に見れるサービスだった。Facebookに買収されてサービスは停止した。
@akihitoさんのブログの画像をお借りしています

記憶②Power.com

2008年頃にあったブラジル発のソーシャルメディアのアグリゲーションサービス。プラットフォームを跨ってコミュニケーションできるツールだった。が、著作権侵害等でFacebookに訴えられる。Power.com側はFacebookを外したが、裁判中にサービス終了。

記憶③Meebo(Googleが買収)
いろんなプラットフォームを跨いでチャット・メッセージができたが、のちにGoogleが買収してサービス終了


記事は決してサードパーティーサービスを指しているのではなくミドルウェアを指しているので、この記憶というのは直接記事に疑いをかける論点にはならないが、どうもミドルウェア解決案が腑に落ちない・・・。

記事中のミドルウェアは、オープンAPIのことを指しているのだろうか、と読んでいる最中に思った。しかし、ホワイトペーパーのほうにもオープンAPIによる解決策というような視点は出てこない。あくまで、プラットフォームのAPIを使う、なんらかの主体が提供するミドルウェアのようである。

そこに私はますます困惑。そもそもAPIを義務付けるぐらいなら、一層のこと相互運用性とオープンAPIを義務付ければプラットフォーム企業と共益関係を結ぶミドルウェア企業を制御しなくてもいいのでは・・・。

このあたりの理解を悩んでいたところ、TechdirtのMike Masonicが明確な指摘をツイートしていました。

ちょっと、安心。

フランシスフクヤマの指すのミドルウェアとはちょっと違うけれども、ユーザが選択するというような意味あいでは、元FCCのTom Wheelerが支持するOpen APIの形があるのを思い出した。これ聞いたのけっこう前だぞ・・・。

 

How to Monitor Fake News |Opinion NYT Tom Wheeler

This is true. And one effective form of information-sharing would be legally mandated open application programming interfaces for social media platforms. They would help the public identify what is being delivered by social media algorithms, and thus help protect our democracy...


しかし、Tom Wheelerさん、最近では、プラットフォーム規制監督庁(DPA)をつくるのがよい、というようなことも言っているようである。え・・・。


もう少し、テック企業のモノポリーについて、暗くならないように考えてみたいのだけど、いろいろてんこ盛りなので、次回に。

2020年6月8日月曜日

イタリアとCOVID19陽性接触者アプリ #MoneyLab8 (前半)

スロベニアにある非営利の文化機関であるAksiomaが主催しているMoneyLabというカンファレンスがとても面白いので紹介します。

Aksiomaはクリティカルな視座から新しいメディアアートや倫理等について学際的に研究・実践する取組を行っています。そのプロジェクトの一つであるMoneyLabは「お金」という切り口から社会を根底から考え直すカンファレンスです。今年のMoneyLabは約1か月にわたり毎週バーチャルに開催しているので、毎週リアルタイムに(または事後の動画)を視聴することができます。

MoneyLab #8

SHARE IDEAS, COMMENTS, QUESTIONS 👇🏿 OPEN CHAT IN NEW WINDOW The next appointment with the MoneyLab #8 streaming series is set for Monday, 1 June at 5 PM CET. The panel Care: Solidarity is Disobedience foresees the participation of Tomislav Medak as representative of the Pirate.Care research project, which focuses on autonomous responses to the...


なぜマネーなのか、というと公平な社会をつくり出すためのディスコースとして、欧州では非常にインパクトの強かったタックスヘイブンという社会問題を含みつつ、暗号通貨やキャッシュレス、グローバル金融システムなどについてアーティストや技術者、アクティビストらとともに検討するという目的意識からです。タックスヘイブンの問題は、日本ではスノーデンの暴露と同様に過少に見過ごされてしまった社会的問題のひとつですね・・・。タックスヘイブン問題が欧州で意識されるのは、日頃の文芸・哲学系の研究者のさかんな議論と欧州の芸術・学術研究支援の助成金の成果だと個人的には感じます。いわゆる”ボーダースタディ”という領域があって、以前から国境、境界という概念について議論・検討がなされていたからこそ、パナマ文書がでてきたときに、その哲学的示唆をより深く考察できています。

さて、今回は「データ主権(data soverignty)と接触記録(Proximity Tracing)」をテーマにスロベニアで活動するNGO Citizen DのCEOであるDomen Savičさんが、イタリア南部にいるJeromiの通称で知られるDenis Roioさん(フリーソフトウェアを創造する非営利組織のDYNE.ORGの設立者でEUのDECODEプロジェクトのCTO)へインタビューするもの。Jeromiは開発者でありながら、社会正義や倫理について強い意識を持っていることで知られています。Jeromiの発言が、すごく本質的で私の問題意識をうまく表現してくれているので救われます。

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インタビューが始まるとDomenはこう口火を切ります。
「ジェロミーにぜひ聞きたい。COVID19パンデミック以来、いつパンデミックの世界を救ってくれるアプリが登場するのか、ボタンで解決できるようななんらかの技術、またそういった問題についてどう思われますか?」

//ちょっとある意味でエフゲニー・モロゾフの本CLICK HERE TO SAVE EVERYTHINGを彷彿とさせる 問いですね。

この問いに対してジェロミーは「簡潔に答えるとどんなアプリが現れようとも私たちが現在直面している問題を解決できません。なんでそんな問いから始めるんでしょう」ときっぱり。そして次のように補足します。「まずは問題の定義から始めましょう。今起きていることは、あらゆるやりとり(interaction)において媒介(mediation)が増大していることです。」

媒介(mediation)とその増大というフレームから社会を捉える、というのはまさにメディアコミュニケーション研究の根っこの部分。

「デジタル技術の発展による媒介の増大は、新たなコミュニケーションの形やアートを生み出しています。媒介するということは、人間の表現、思想、コミュニケーションになんらかの第三者※の側面が介入し、場合によっては所謂『ミドルマン』となってそのコミュニケーションに対し盗聴、追加、削除、逸脱することがあります。」
「ほかのメディアのことを思い出してください。例えば電話、メール、写真。それぞれ良い点、悪い点をもたらしました。それぞれが人々の認識をどう変えたか。」

そしてさらに、哲学者ヴィレム・フルッサーの理論を踏まえ、次のようにコメントしています。(本気で理解したいと、ここここが参考になるかと)
「フルッサーが予見したようなテクノイメージの置かれる状況、つまりテクノイメージがリアリティに先行し、テクノイメージがその後を作る、ということは、まさに今我々が困っているフェイクニュース問題に相当すると考えられます。画像や音声の合成(synthesis)によるCovid19にまつわる陰謀論の拡散などは見事にフルッサーの理論が言い当たっているのではないでしょうか。」
「またデータビジュアライゼーションはテクノイメージの創造であると捉えることができるとすれば、データビジュアライゼーションもまた、リアリティを定義し説明するもので、やり様によっては、真実を隠したり明らかにすることになるので、どうデータを使うかが重要。」

さて、ようやく接触アプリの話に移ります。ジェロミーは、接触アプリが果たすべき役割は、あくまで個人が自身のリスクアセスメントをし、それに基づいて意思決定することであるとしています。SARS-COV2は、無症状の潜伏期間が長く、その期間中に接触したことを知ることができれば、個人がよりよい判断(自己隔離をしたり、その期間に接触した友人や家族にリスクを伝える)をすることができる、という前提からです。これに対し、接触アプリの悪い例は、トップダウンで、個人をトラッキングし、リスク評価をされる(リスク評価をするのは個人ではなく、上意下達的にモニタリングする側)ようなケースだとしています。あるべき姿はプライベートなアプリであり、自分に関するデータが他者によって集積され、そのことが自分にはわからないような状態であれば問題のあるアプリになってしまう、と述べています。

2020年5月18日月曜日

自警団とアプリ(自粛ポリス考 その2)

自粛ポリス考その1では、パンデミックによる不安・ストレスと、インターネット利用時間が増えデータ(ニュースやSNSでの情報)との付き合いが多くなっていく中、Web2.0以前から指摘されてきたヘイトやデマの問題に加え、より効率的に最適化された近年のアルゴリズム等によって拍車がかかっていくこと、その背景にる広告ビジネスモデルについて目を向けてみました。

考えてみるとインターネット以前においても、デマとヘイト・人種差別と私刑行為はいつもタッグを組んで厭うべき対象を共有し、排斥行為を繰り返してきました。私刑行為の正当化はほとんどの場合、不安の中、デマや誤情報が拡散されヘイトの対象となるグループにより命の危険にされるとして自身や家族(特に女性や子供)を守るためとして自警団を組織していきます。

銃の所有が容認されている米国ではボランティアでパトロールを行う自警団員が、丸腰の少年を結果的に銃殺してしまったケースがありその背景として世間からは人種差別が指摘されました。さらに古くは検証済みでないデマが発端となり自警団の行動が大量虐殺を引き起こした100年前のケースなど、挙げればきりがありません。ヘイトの被害にあうのは、特定のグループに属する人種に限定されず、実際にはその特定グループ以外の人々も被害が及びます。

'Watchmen' revived it. But the history of the 1921 Tulsa race massacre was nearly lost

The explosive opening in the first episode of HBO's "Watchmen," with citizens of a black Tulsa, Okla., neighborhood being gunned down by white vigilantes, black businesses deliberately burned and even aerial attacks, has brought new attention to the nearly buried history of what the Oklahoma Historical Society calls "the single worst incident of racial violence in American history."

日本においても不安やストレスが強い環境において特定のグループへのヘイトが高まり、ヘイトの対象と同一視され殺害されてしまった歴史もあります。自粛ポリスをインターネットのせいだ、として悪者扱いしても(というかインターネットを相手にしても・・・)何の糸口にもなりません。自粛ポリス考その1で書いたように、サイバースペースの問題と物理世界の問題をそれぞれ別の問題として断絶させてしまう事態が続かないよう包括的なアプローチが必要です。

パンデミックにおけるテクノロジーへのまなざしも分断しています。情報の加工や収集、拡散が容易になったことでインフォデミックが起こり、その原因として予てから指摘されてきたリテラシー教育の不十分さや、プラットフォームの推薦アルゴリズムどを問題視する声も生まれます。一方で、感染拡大の防止にテクノロジーが打開策を提供してくれるだろうとして、データの集積やGPS等に希望を見出すものもいます。

人間の尊い命を奪うウイルスによる未曽有の事態においてテクノロジーとどう向き合い、取り組むべきなのか。このブログでも過去に何度か参照し、テクノロジーの解決主義(Solutionism)批判で知られるEvegeny Morozoffは、今般もガーディアン紙に「パンデミックを”IT政策”で乗り切るのは大間違い」と寄せています。相手が未知のウイルスであっても、教訓となる事柄は充分にあると考えます。同様に過去に参照したユヴァル・ノア・ハラリは「パンデミックよりも恐ろしいのは人間のヘイト、欲、無知」だとし、さらに個人データ収集については「市民への監視が進むのであれば、政府への監視も併せて強めなければならない」と話しています。


私が思い出したのは、過去に国内で議論を巻き起こしたテクノロジーによる浅はかな解決主義に対する批判です。日本のGoogleによるインパクトチャレンジという社会課題解決にICTを使うビジネスコンテストで、あるNPOが起案した「GPSによる治安維持とホームレス雇用の両立)事業」が、ホームレスの当事者支援団体などにより批判を浴びました。突っ込みどころが多すぎるから詳しくは書きませんが、先に触れたパトロールや不安と差別、ヘイトなど様々な問題を含有します。善意が、意図せずこういう方向に向かってしまうのは残念と思うとともに、では何を理解しておくべきだったのか、というと大学の講義で体系だって教わることでもないのかもしれないので、想像しようもなかったのかもと思うと、どのような手立てでこうしたことが防げるのかな、というのが私にとってテーマでもあります。

NPO法人Homedoor「CRIMELESS(GPSによる治安維持とホームレス雇用の両立)事業」への批判

Googleインパクトチャレンジ受賞『CRIMELESS(GPS による治安維持とホームレス雇用の両立)』の問題点 参考:「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞した事業「CRIMELESS」についての意見書 http://lluvia.tea-nifty.com/homelesssogosodan/2015/03/googlecrimeless.html

テクノロジーをどう利用するのか、政治とデータの関係は一層密を極めています。個人がデータの行きつく先について理解せずともテクノロジーの利用は増える一方です。最近ではトランプ陣営が新たなアプリをリリースし話題になっています。これに対し、シンクタンクのTactical Technology Collectiveは、「キャンペーンアプリは同じ考えを持つユーザを集めるので、思想的多様性が避けられてしまい一層フィルターバブルやコンファメーションバイアスを強化するリスクがある.  」と警鐘を鳴らしています。

また最近になって、トランプ陣営が勝利したのは単に他の候補者よりもFacebookに莫大な広告費をかけ、Facebook広告が算出した最適化された広告を活用したことが勝因になったのでは(つまりキャンペーンマネージャーという人間による戦略的に案を練って低コストで最適な効果を得る広告を作るという意思決定ではなく、Facebook広告に内在する計算機が導いた)との分析も改めて注目されています。そして政治的キャンペーン、選挙活動としてトランプ陣営はパンデミックを利用し、憎悪を増幅させるキャンペーンを展開しています。
画像:https://www.anotheracronym.orgによる選挙広告に関する分析記事


 問題は、こうした憎悪は特定のグループに作用するだけでなく、ひいてはそれ以外の人々にも被害をもたらします。パンデミックをもたらしたウイルスを裁いたりリンチしたりできないフラストレーションが、さらなる憎悪や分断を生むなか、過去の教訓に学びながらテクノロジーへのバランスの取れた視座を得ようと試みることが必要なのではないでしょうか。